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マーロン・ブランド

マーロン・ブランドについて語る PARLO DI MARLON BRANDO

2004年7月1日、
アメリカの俳優マーロン・ブランド
80歳で肺炎のために亡くなった。

1924年に生まれ、
舞台俳優の道に入ったブランドは、
1950年の『男たち』(日本未公開)で映画デビュー。
1951年にはヴィヴィアン・リーと共演した
『欲望という名の電車』がヒットし、
ハンサム青年は名声を得る。
この作品の彼は不良の役だが、
今観ても引き付けられるワルさと強さを
魅力的に表現しており、
当時の彼をスクリーンで見るために
この時に生まれていたかったとさえ思わせる。

不良の役といえば1954年の『波止場』でも演じていたが、
こちらは不良グループに属しながらも心優しい青年。
『ウエストサイド物語』の主人公トニーのイメージは
ここから少々得たのではなかろうか。
共演のエヴァ・マリー・セイントがうらやましい。
このあたりの演技はもう少し後年の
フランス人俳優アラン・ドロンにも通じるところがあるが
(特に1960年のイタリア映画『若者のすべて』は
ブランドに影響されていそうだ)、
ドロンがかなりインテリっぽい感じがするのに対して、
白いTシャツとジーパン姿のブランドは
アメリカの土っぽさを外面と内面から表現している
(このあたりはジェームス・ディーンも影響されたところである)。

エリア・カザン監督の『革命児サパタ』
『波止場』(これも同監督作品)の2年前に作られている。
実在したメキシコの英雄サパタを堂々と演じ、
この作品でアカデミー助演男優賞を受賞した
骨太のアンソニー・クインにも
決して見劣りはしなかった。
ラストで自らの死を覚悟しながら
殺されるシーンは実に壮絶であった。

まだ観る機会がなく、観なければならないと思っているのが、
日本を舞台にした1957年の『サヨナラ』である。

さて、チャーリー・チャップリンの『伯爵夫人』(1967年)は
イタリアのソフィア・ローレンと共演した豪華な一品である。
喜劇王のもとで喜劇を演じるブランド。
この頃から燕尾服の似合う恰幅のよい
わたしたちのイメージするところの彼に変化を遂げている。

1972年はわたしの生まれる数年前であるが、
ブランドにとって非常に意味のある一年だったと思う。
この年の彼の作品をわたしはもちろん2本とも観ている。
ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラスト・タンゴ・イン・パリ』
フランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』が発表された年だ。

『ラスト・タンゴ・イン・パリ』の
パリを徘徊する暗い孤独な中年男は、
あとにも先にも彼以外に演じられまい。
ブランドの俗っぽさ、そうでありながら同時に持つミステリアスさ、
そして終始描写され、問題にもなった激しいセックス・シーン。
題名にもある「タンゴ」を彼女と踊るシーンは
やはり一番心に残る。
これを観た当時、まだパリに行ったことがなかったわたしが、
まるでブランドをそのダンス・ホールで
間近に見ているような感を覚えたシーンである。
さすがにマリア・シュナイダーに
自分を投影するようなことはしなかったけど。

『ゴッドファーザー』は説明するまでもないだろう。
ブランドの代表作である。
いつも思うのだがわたしには、この作品が三作通じて
アル・パチーノ演じるマイケルが主人公に見えて仕方がない。
ブランドが、うまくアル・パチーノを引き立てており、
自身の演技によって、
彼を主人公にと持ち上げていく演出をしているように思えるのである。

1979年の『地獄の黙示録』も
1989年のアカデミー賞助演男優賞ノミネート作『白く渇いた季節』も未見。
いつかは観ようと思う。

イタリアに来てから劇場で観たのが2001年の『スコア』で、
確かこれが最後の作品ではなかろうか。
ものすごい肥満体で、座ってるシーンのみだったような。
さすがに特別出演的存在で、
出演時間もほんの少々。
エドワード・ノートンの名演と
主演のロバート・デ・ニーロのせいで
正直あまりブランドの演技については覚えていない
(存在感はあっぱれであったが)。

しかしこの『スコア』で共演したロバート・デ・ニーロ
(『ゴッドファーザー』ではブランドの青年時代の役を演じている)や
やはり『ゴッドファーザー』の愛息役のアル・パチーノには確実に
彼の「自然かつ特徴ある」(秋山登氏の言による)
演技ポリシーが受け継がれており、
ブランドの映画界に与えた影響は明らかである。

彼のベスト作品を挙げろと言われれば、
多くの人が『ゴッドファーザー』を挙げるだろう。
わたしは若かりし頃の作品のいずれかを挙げたい。
彼がハンサムだったからという理由もあるが、
1950年代の彼はまだ俳優として高い位置にはおらず、
演技には積極性とフレッシュさと荒っぽい野性がある。
時代性も反映していたのであろう。

時代と彼自身の演技力が生んだ名優マーロン・ブランド。
もうこんな俳優は現れないに違いない。

参考記事
秋山登筆・2004年8月10日火曜日付・朝日新聞国際衛星版22面

(2004年8月20日)

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